ハロウィンパーティ招待状から始まるそれぞれのサブストーリー

リィキュの場合

「ねえ。ハロウィンパーティって、どんな感じだったのかしら?」
つとめて何気ないふうで、リィキュは、傍らの人形使いにささやきかけた。

薄暗い舞台袖。
一枚、幕を隔てたところで、綱渡りが佳境を迎えていた。仏蘭西人形のようなかっこうをした演者が、綱に一歩踏み出そうとしている。ピンと、張りつめた空気。
手のひらに座らせた人形を、じっと見つめて動かなかったフランは、やはり目線は人形に留めたまま
「夢のよう、だったよ」
ぽつんと呟いた。
人形のむこうの、とおい景色に、おもいを馳せているみたいに。
「ふうん。それだけなの? せっかく招待されて行ったっていうのに、ずいぶんな感想ね。それとも、起きたときには内容を忘れている夢のように、もう覚えていないとか」
「べつに、それだけじゃ……」
やっと視線をあげたフランは、あざ笑うリィキュを横目で牽制しながら、続けた。
「……気になるなら、自分で確かめたほうが、いいよ」
「なんでそうなるのよ」

「届いたんじゃないの。
 ……招待状」


胸の真ん中に、ナイフが飛び込んできたような衝撃に、余裕にみせた表情がくずれる。
──昨年の仕返しってわけ? なまいきね!
笑みをひっこめたリィキュは、すぐさま小声でかみついた。
「……知っていてからかったのね、意地の悪いこと。いつ見たのよ!」
「見なくてもわかるさ。リィキュは、態度が、あからさまなんだもの」
「なによそれ! 失礼ね!」

幕のむこうで歓声が起こる。
綱のまんなかで、パラソルを掲げた演者が次々にポーズをとっている。
非難をかき消されたかたちのリィキュは、くやしそうな顔をしたけれど、すぐに笑顔を作る。つぎはリィキュの出番なのだ。羽根を背負いなおして、頭のリボンをととのえて、くるりとまわって、フランに背を向けて。
「行かなくちゃ。またあとでね」
そうしてステージへむかいながら、不意に振り向く。
ナイフが、フランの頬のすぐ横をかすめていった。
──投げられっぱなしなんて気にいらないもの。ナイフ投げの名手は、わたしなんだから。
「招待状のこと。黙っているのが、身のためよ。分かっていると思うけど」


……ステージの上、ナイフの的をまえに、緊張の面もちで立つ少女。
不安そうに見せるその演技も、決して的をはずすことのない腕も、リィキュは一流だけれど。

「夢のように、楽しかった。って、言ってあげたらよかったかな」


Happy Halloween !!




See you later!

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