ハロウィンパーティ招待状から始まるそれぞれのサブストーリー

リクの場合「Moon River 03:such a lot of world」


どうやら今日が出立の日らしいというその夜、全ての準備を終えたリクは小さな広場に居た。どうしてもリク自身の手で作りたかった菓子は、リクの親友とその姉がリクに手を貸してくれた。
傍らにはミサト、そして過去にパーティーに行ったことのあるユイキとソウタも念のためにと駆けつけていた。
天球には正円を描いたルナの影が輝いている。パーティー会場には天球なるものが無いらしい、とは参加者の弁だ。どうやら全く未知の時空が会場であるらしい。
「…迎えって、どこからどう来るんですか?」
リク以上に落ち着かないミサトがぼそりと呟いた。
「えーどうだろ、俺飛んでったからなー、正規ルート知らない」
「オレの時は、ちゃんと迎え来ましたけど」
「え、そうなの?」
「えぇ、どー考えても室内に来ちゃいけないものが来ました」
「”もの”?」
「人、では無いと思うんですが…、あ」
上に目を遣ったユイキの言葉が止まった。三人も一斉にユイキの目線を追う。
橙色の淡い光を放った巨大な何かが上空から接近し、やがて広場に着地した。目や口を象って一部がくり抜かれているカボチャが四体、無傷のカボチャが一体、大きなものが下になるように積み重なって塔を形成している。
「お迎えにあがりましただ!」
「迎えに来たっす!」
「お迎えですー」
「ですー」
「―」
塔が、大きなものから順に口を利いた。
色々な意味で”普通では無いらしいこと”に免疫のあるユイキとソウタは平然としているが、ミサトとリクはぽかんと口を開けるしか無い。
「うっわー、なっつかしいなぁ!!久し振りっ、俺のこと覚えてる?っつか喋れんの!?」
カボチャの塔には、かなり背の高いソウタですらしがみ付く格好となる。塔が嬉しそうに揺れた。
「勿論覚えてまさぁ!本当はお喋りしたかったんでさ」
「お喋りしたかったっす!」
「覚えてるですー」
「ですー」
「―」
「うわーうわー、分かってたら声掛けたのにー!皆がお迎えやってんだ、すんごい大役じゃん」
ソウタが親しげにカボチャをべしべしと叩いて談笑するものだから、兄妹としてはいよいよ訳が分からなくなる。
「…ユイキちゃん」
顔を引き攣らせたミサトが、漸く口を開いた。
「はい?」
「迎えに来たもの、ってこれ?」
「えぇ」
「これに…乗る、んだよな」
「乗ってる…んですかね、中からだと外の様子分かんねーから何とも」
ミサトは深く溜め息を吐いた。
ただただ呆然と塔を見上げているリクはまだ分かっていないようだが、悲しいかなミサトには一つ心当たりがあった。このカボチャが乗り物として機能するのであれば当然どこかしらに乗る場所があるわけで、しかし五体とも表面にそれらしき箇所は無い。
「一応確認するけど、…どこに?」
ユイキが無言で口を開き、中の空間を差した。
「…やっぱり?」
「…残念ながら」
ミサトが頭を抱えた。
ソウタとの話を終えた一番大きなカボチャが、さて、と言って身体を揺らした。
「そろそろそちらのお嬢さんを会場へお連れしますだ!」
「ご招待っす!」
「案内するですー」
「ですー」
「―」
リクが首を傾げた。
「あたし、どうしたらいいんですか?」
「一番下の奴の口が入り口になってるから、そこから入っ」
「え、待っ…」
淡々としたユイキの説明に、思わず制止の声をかけたのはミサトだった。カボチャの塔を含め、全員が一斉にミサトを見る。
「いや、その…本当にそれしか無いのか?」
ユイキが笑いながら息を吐いた。カボチャの塔の方を向き、目線でミサトを示す。
「この人、可愛い可愛い妹さんに何かあった日には皆さんのことをプリンとマフィンとケーキとムースとアイスとシュークリームとクッキーとパイにして全部一人で平らげるくらい平気でやると思いますけど」
塔が無言で一歩後ろへ飛び退いた。
「あははっ、んな心配要らないっしょー。ねぇ?」
ソウタの笑い声に、ぴょんと戻って来たカボチャ達が渾身の力で頷いた。勢い余った一番上のカボチャが空中で二回転する。
ユイキとソウタがミサトを見た。
「ま、そーいうことです」
「そんな心配しなくてもさ、あっちの連中いい奴等ばっかりだから。平気平気っ」
「…、分かりました。リクを宜しくお願いします」
乗り込む本人よりも深刻な表情でミサトが言うと、カボチャの塔が微笑んだように見えた。
リクがカボチャの真正面に立った。ぺこりとお辞儀をする。
「カボチャさん、パーティー会場まで連れてって下さい」
「よしきた、お任せくだせぇ!」
四体を乗せたまま、一番下のカボチャが器用に口をがばりと開けた。振り向いたリクが笑った。
「お兄ちゃん、ユイちゃんさん、エドさん、行って来ます!」
「いってらっしゃい、気を付けて」
「思いっ切り楽しんで来な」
「友達たーっくさん出来るといいな!」
お邪魔します、と律義にも挨拶して、リクがカボチャの中に飛び込んだ。
口がすっかり閉じて中が見えなくなると、カボチャの塔はぶるりと一つ震え、物凄い勢いで飛び上がった。

「…行っちゃった、か…」
塔の消えた方を見つめて、ミサトが呟いた。ユイキとソウタも同様に上方を見上げている。
そして今この瞬間、カムの中には同じように上方を見上げる者達が居る筈だった。リクが直接会うことの出来た人物はほんの一部だが、実際には見送りに来た三人の仲間達が準備のために動いている。
全ては、リクとパーティーのために。
「…大丈夫、なんですよね」
「それは…ねぇ?ユイちゃん」
「心配要りませんよ」
ミサトの呟きに、パーティー経験者である二人は綺麗な笑顔を浮かべた。
「「今夜、絶対夢に見ますから」」




See you later!

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