贈り物の日:15 『雪花 −1』



 郵便屋から荷物が届くにはタイミングが良かったのか、悪かったのかはアルフレドには計りかねた。
 今日は仕事が休みで、イヴェルが家族の元に戻る途中に立ち寄ってくれて、アイとシュシュも浮島から下りてきた。
 シュシュは相変わらずショッピングに出かけているために、アルフレドの部屋にはイヴェルとアイが居る。
(シュシュさんと一緒に出かければよかっただろうか?)
 この二人と一緒に居るのはアルフレドにとっては気が休まるのだが、同時に邪魔しているような気分になる。
 アイに貸す本を選びながらも考えていると扉をノックする音がして、メイドが荷物を持ってきた。荷物は一見手紙と思えるほど小さなものだった。
 差し出し人を確認して「少し失礼します」と二人に断り、部屋を出る。
 仕事部屋に入ると、兄のスヴェンが書類処理をしているところだった。
「何か用でも?」
「済みません。客人が居たので」
「見せられない手紙なのかな?」
「いえ、今日来ている客人への贈り物が入っているので」
 アルフレドが苦笑して答えると、「そんな時期だね」とスヴェンは視線を書類に落とした。
 確か積まれている書類の中には贈り物のリストがあるはずだ。ただ、今年はシウ家から持ち掛けられた見合いと各国の援助を受けた運動会というイベントを行ったために要人との関わりが急速にできてしまった。相応しい品を見定めなければならない。
 商家の腕の見せ所だと、祖父は言ってくれたが自分の軽はずみな行動に少し後悔している。
「あの……兄さん。済みません。余計な仕事ばかり増やしてしまって」
「アドニアとシウ家に借りを作る事がかい?それとも、アレクティスに私が行く事がかい?」
 アルフレドが困った顔をすると、スヴェンが目を細めて微笑む。
「見合いの件と運動会の件でアドニアとシウ家には借りは無い。王都に行くのも久しぶりだ。こちらに来られたのはトリス様だが、もしかしたらファーレンハイト様の謁見も許されるかもしれない。ミッドガルド様のお姿も拝見出来ればよいのだけど、この時期は多忙かな」
 アルフレドから見てもとても嬉しそうにスヴェンは笑う。笑うことはあっても、嬉しそうな雰囲気を出すのは大層珍しい。
 上機嫌な兄を見て、アルフレドは少し安堵した。そして、手紙の封を開ける。
封筒には薄い紙に包まれたものがいくつか入っている。取りだすと紙がこすれる音と軽い金属音がする。
「なんです?それは」
「しおりですよ。トルナーレの職人に造らせたものです」
 アルフレドは写し紙を丁寧に開けると、長方形の薄い銀の板に夜空を表した透かし模様が入っていた。
紙一枚分ほどの厚さしかないのに段差があり、奥行きを出している。
「トルナーレには精巧な金細工師がいるのですね」
 スヴェンも思わず席を立って銀のしおりを見た。
「3年ほど前ですが東方の刀鍛冶師の人探しを手伝った事があります。まあ、お役に立てなかったのですが。その方がトルナーレに工房を構えたと言う事なので頼んだものです」
 アルフレドは他の包みも開ける。金と銀。対になるようと頼んだ模様は3種類。
「こんな素敵なものが出来るとは思いませんでした」
 ようやく、プレゼントには足りないものに気付く。本と一緒に贈るつもりだったのだが、本は自室に置いてある。
 今戻って渡そうか、包装し直して郵便屋に頼もうか。迷っていると、ドアをノックする音がした。メイドの後ろに買い物に出ていたシュシュが立っていた。
 その後ろには背の高い男が両手に荷物を持っている。
「お帰りなさい、シュシュさん。その方は?」
「カル君よ。同じ浮島の人。荷物持ってもらったの」
「カルド・エレだ」
 針葉樹を思い出させるような深い緑に強い眼差しの深紅の瞳。背はアルフレドよりも高いが歳は同じぐらいだろうと思った。
「お初にお目にかかります。アルフレド=リンドホルムと申します」
 一礼してからスヴェンを紹介する。スヴェンは座ったまま頭を下げた。
「アイさんならば、僕の部屋ですよ。どうぞ」
 シュシュはすぐに踵を返しアルフレドの部屋の方に向かったが、カルドは少し迷っている風だった。
「カルドさんもどうぞ。寒かったでしょう?お茶を用意させますから」
 一人では広いと感じていたこの部屋をこんなにも狭いと思った事は無い。
 自分の部屋に人を招くと言うことを想定していなかったアルフレドは戸惑いながらも、少し浮かれていた。





終わり無き冒険へ!