贈り物の日:15 『雪花 −2』

「折角なのでこの場でお渡ししますね」
 アルフレドは用意した本と一緒にしおりの入った包みをイヴェルとアイに渡す。
「済みません。まさか、贈るものが被ると思わなかったので」
 包みの中を見て、イヴェルが苦笑する。
 彼に用意したしおりにも花の模様が入っていたのだ。だが、こちらは浮島にしか生息しない花だった。花言葉は記憶してない。
 アイに用意したのは銀に雪の結晶の模様。並べると模様の位置が対称になっているのが判る。
「お前、こんな凝ったしおりを毎年贈ってるのか?」
「いつもは本を贈っています。でも、今年は図書館以外で出会った方が多くて」
 だから、迷ってしまった。本以外では考えられなかったのだ。
 しおりを用意したのは6人。イヴェルとアイ。師であるジルと姉弟子になるフィーナ。見合いで世話になったジズとシーリィン。シーリィンはフィーナと同じく姉弟子だから、というのもある。
「でも、シュシュさんはすぐに決まりました」
「あたし!?」
 話の矛先が自分に向くと思ってなかったのだろう。シュシュは大きな目をさらに大きくした。
「ええ、本当はもっと早い時期にお渡ししたかったのですが。タイミングが掴めなくて」
 アルフレドは机の上に置いていた、大きめの紙袋をシュシュに渡す。
「運動会では大変お世話になったので」
 袋の中身はコートである。シュシュは露出度の高い服を好む。
 暖かい浮島ではそれでも構わないだろうが、一年の半分以上が雪で覆われるヒューフロスト領内であるインテグラでは降雪量が少ないといえども寒い。
 今日は毛皮で作られたボレロを着ていたが、もう少し露出を押さえても良いと思う。
「これ、きみが選んだの?」
「お店の方に身立ててもらいました。気に入りませんでしたか?」
「しゅーちゃん、着てみたら?」
 アイに促されて、シュシュは渋々といった風にコートを羽織った。
「重い」
「でも温かいでしょう?」
「さっきまで暖かったよね。カル君」
「え……ああ」
 その答えにイヴェルとアルフレドは顔を見合わせる。この時期にシュシュの格好で暖かいはずがないのだ。
「今日はたまたまですよ。女の子なのですから、身体を冷やしては大変です」
「大丈夫だって。今日はカル君が居るし」
 シュシュはカルドの方に身を寄せる。何となくだが、室温が上がった気がする。
「カル君と一緒に居るといつも暖いんだから」
「でも、いつもカルドさんが一緒ではないのでしょう?」
「そうだけど……」
「ですから、その代わりに着ていただけると嬉しいのですけれど」
「まあ、可愛いからいいけど」
 アルフレドからすれば他意はない。シュシュも寒いからと心配してるのだな、と思うだけだ。
 他の三人はというと、そうは捕らえなかった。
 一気に室温が下がる。
(なんで、部屋の中なのに寒いのだろう?)
 アルフレドは扉や窓が開いているのではないかと目をやる。窓の外にはチラチラと雪が舞っていた。
 3人を観察していたイヴェルは小声でアイにカルドの能力を聞いた。
「しゅーちゃんが言うには、怒ると気温が下がるんだって」
「あー、なるほどな」
 クツクツとイヴェルが笑う。
「お前、無自覚にそういう役回りやってるのな」
「何の事ですか?」
 イヴェルが笑う理由が判らず、アルフレドは室温を上げる為に、机の上にある火の精霊が宿る本に触れた。
(来年は本以外を選べたら良いな)
 本当はシュシュに贈りたい本はあったのだけれど、彼女のことを考えると真っ先に本以外を思いついた。そのことに自分が驚いた。
 この時に初めて相手に贈り物をするという事に気付いたのだ。
 だから来年もこんな風に一緒に居られればいいと思う。
「また、難しく考えてんだろう?」
 すぐ目の前にイヴェルの顔がある。応える様に笑うと、イヴェルは困ったように笑った。
「お前、当り前な事を小難しく考える所あるから」
「当り前な事……」
 ふいにイヴェルからもらったしおりを思い出した。
「なんで、そこで赤くなる!」
「す、済みません……」
 二人の様子を見ていたシュシュがアイの方に近寄る。
「ねえ、あーちゃん。あの二人と一緒に居るのはどうかと思うよ?」
「しゅーちゃんが心配するほど悪い人達じゃないと思う」
「そういうんじゃなくてさぁ。カル君はどう思う?」
「地上の人間のことは判らないな」
 シュシュとアイの言う事は判るというニュアンスを伝えたかったが、カルドは上手く言葉には出来なかった。
 3人の視線を感じて、アルフレドはその視線の意味を解さずに笑顔を返した。
「なんでも笑ったら済むわけじゃないんだから!!」
(何故か怒られた……)
「でも、これはありがと」
 コートの襟を立てて、照れ笑いに近い表情でシュシュが言う。
 これで怒られた理不尽さが帳消しになるのだから女の子はズルイ、とアルフレドはまだ顔のほてりを感じならが思う。
(そしてまた、寒くなったのは何故だろう?)
 この問いに答えられたのはイヴェルだけであったのだが、温かく見守ることにした。





アルフレド・スヴェン・イヴェル・アイ・シュシュ・カルド
文:ふみ

終わり無き冒険へ!