秋の大運動会SP 準備編:02 『レンジの怪』

「アル兄、運動会知らないの?」
 黒髪の少女が信じられないという顔で驚いているが、アルフレドは「存じません」としか言いようがなかった。
「だってここ、学園都市でしょう?」
「教養を深めるために学び舎としての施設はありますが」
 インテグラは図書館を中心に作られた都市である。自然と知識を求める者が集まり、それを教える者と学ぶ者の場を作ったのだ。
 今では都市人口の2〜3割を学生が占めていることになる。
「だったら、球技大会とか学園祭とか修学旅行とかあるでしょう!!」
「あるでしょう、と言われましても……」
 チラリと少女以外の人物を見ると、二人とも同意するように頷いている。
 三対一と分が悪い。
「そうだよね。そう言えば、アル兄はクラッカーも知らなかったものね」
「ああ、ヒモを引っ張ると音が鳴る不思議な三角錐の筒ですね」
 誕生日だと言った日に「おめでとう!」という言葉と共に音と小さな色紙が出てきた不思議な筒。
 だがしかし、それは彼女の住んでいる世界のものではなかっただろうか?
「運動会というのは……あおいさんの世界のものですか?」
 ようやく、アルフレドは自分と彼女たちのと相違点に気付く。
 あおいと右隣に居るのは彼女の兄である朔。そして、奥に座っている男は獅子道良一と名乗った。
 響きが東方のものだったので、彼はこの大陸の人間だと思っていたのだ。
「そう!この時期の学校での恒例行事と言えば運動会!!」
「学園祭もあるけど、まあ、そこは置いといて」
 朔が見えない何かを移動させるような動きをする。
「それで、運動会とはどのようなことをするのですか?」
「そこからかー」

 三人の説明でぼんやりと運動会というものが判ってきた。
「つまりは二つ分かれて、個人あるいは複数人で設けられたルールに基づいて戦い、勝敗を決める、という解釈でよろしいのでしょうか?」
「まあ、そんなものかな」
 良一は朔とあおいを見ると、二人とも頷いていた。
「ではどのようなルールがあるのかをお聞きしたいのですが」
「ルールって言うか……競技は徒競争が基本でしょう。普通に走るのは面白くないから、障害物競争に借り物競争でしょう。二人三脚も良いよね!それに玉転がしとやっぱりリレーだよね」
「団体戦だったら、綱引き・玉入れ・騎馬戦とか?」
「合間に応援合戦や仮装行進とか。フォークダンスってのもあったっけ」
「大変申し訳ないのですが、それらを一から説明していただけますか?」
 再び、三人の説明がなされる。今度は図を用いての説明であった。運動会には必要だと、あおいは紙の上に楕円を何重も描いた。
「あおいさんが挙げたものは基本的に速さを重視するもの。良一さんは腕力、朔さんのは余興と言った感じでしょうか?」
「アル兄が言うと堅苦しいけど、まあそんなカンジ!」
「運動能力のいるものなのですね」
 アルフレドはこれらが何故学生に必要なのか判らなかった。
 学生ならば、勤勉に励むものなのではないだろうか?勝敗を決めるというならば、武道大会と同じではないか。
「今、面白くなさそうって顔したでしょう?」
「いえ、そのようなことは決して……」
「思った!アル兄、体力ないからそう思ったでしょう!?」
「まあ……あまり運動が得意でないのは確かですが……」
「いい?どんなに足が遅くても運が良ければ、借り物競走ですんなり借りれたら一番になれるの!どんなに足の速いが早くても息が合わなければ二人三脚は走りきれないの!例え、力が弱くても皆で力を合わせれば綱引きで勝てることができるの!一人は皆のために、皆は一人のために!!これが!運動会で伝えたいチームワークという心意気なのよ!!」
 あおいは拳に力を入れ、まるで空に言い放つように高らかと公言した。
「なるほど……?」
 あおいの気迫に押されたアルフレドは、「図書館では静かに」と注意することすら忘れてぎこちなく拍手をする。
「じゃあ、試しに皆でやってみようよ」
「皆……とは?」
「ミル兄とかルヴァちゃんとか、一緒に冒険した人達!!」
「おお!それ良いな。こういうのだったら、船長さんも逃げずに勝負してくれそうだし。ヴェイタさんや王様とかに勝てるかもしんねーし」
 朔の言葉に「なるほど」とアルフレドは呟いた。武道大会であれば、運が多少影響しても実力勝負だ。だが、この運動会とやらにはそれ以外のものも絡まっているらしい。
「そうですね。冒険者ギルドの方で登録している方に打診をしてみましょうか。では、今度は運動会の流れを教えてもらえませんか?」
「流れ?」
「段取りが悪かったら参加してる方が苦でしょう?祭典でも挨拶の順番とかで揉めますからね」
「挨拶?そんなの、無し無し!」
 校長の話は長いって相場が決まっているからな、と朔は付け足す。
「花火は必須!!」
「キャンプファイヤーとかもしたいな」
「朔、それは学園祭の最終日じゃないか?」
 良一の言葉にあおいと朔は同じタイミングで良一を指した。
「アルフレドさん、実は運動会って一日じゃ終わらないんだ」
「え?」
「そうそう、2〜3日ぐらいで行われるものなんだよね」
「ええ?」
「そうなんですか。そんな大規模なものなのですね」
「ええっ!?」
 ここで、アルフレドはようやく良一の異変に気付く。
「違うのですか?」
「違わなくないよね!良兄」
「3日ぐらいやってたよな。良一」
「は……はい」
 あおいと朔に折れたのだけはアルフレドでも感じられたが、暁兄弟に勝てるかと言えばアルフレドも負けるであろうから話をそのまま続けることにした。
 視線で「その気持ち、判ります」と良一に向けた。
「では、先に花火の発注と会場のセッティング、参加者への招待状ですね。ああ、開催はいつにしましょう?」
「じゃあ、15日から三日間」
「早っ!もうすぐじゃないですか」
「こういうのは早くしないとダメなの!よしっ!準備、頑張っちゃうぞー!!」
 あおいはその決意を示すかのように、満面の笑みで右拳を限界まで上に伸ばした。
 
 あおいに仕えているという天使と悪魔は一つ離れた席で4人の会話を聞いていた。
「ねえ、ルナミスちゃん。いいのかな?」
「すっごい楽しそうじゃん♪」
「そうじゃなくて……異界のごく一部の行事を伝えてしまっていいのかな……って」
「リフィル、知ってる?電子レンジってその当時では考えられないような技術だったことを」
「なんで出来たの?」
「一説には地球以外の文化から流れてきたとか来なかったとか」
「……それで逃げ切るつもり?」
「大丈夫!アタシら世界樹のメンバーじゃん!」
「だからダメだと思うのよね」




アルフレド、あおい、朔、獅子道良一、リフィル、ルナミス
文:ふみ

終わり無き冒険へ!