Novel:22 『鈴』
サイが歩くと、髪に付けた鈴が鳴る。
チリンチリンと歩くリズムに合わせてるよう。立ち止まって海を見ると、鈴は鳴るのを止めてしまった。
夏の夕方時が好き。真っ赤に染まる空と海が見れるから。
(わたしもあんな風に染まればいいのに)
朝焼けの空を見れば娘を、夜の空を見れば息子を、夕陽を見るとあの人を思い出しては祈る。
ちゃんと食べてますように、危ない目に合ってませんように、良い人との縁が結べますように。
(早く、帰ってきますように)
チリリンと鈴の音がしたので、振り向く。長い髪の女性がいつの間にか立っていた。髪に腕にと赤いひもと鈴が付いてる。
「海は好き?」
頭に響くような声。
サイはコクリと頷く。チリンと鈴が鳴る。
「貴女も鈴を持ってるのね」
嬉しそうに彼女は言った。
この人も鈴が好きなのかしら?何故、あの人もこの人も鈴なのかしら?
「男を探しているの。赤毛で碧眼の……」
一瞬、息が詰まる。
「ツィーダルというの。知らない?」
名前を聞いて大きく息を吐いた。
「どうやら、貴女の知ってる人とは違うみたいね」
クスクス笑うと鈴も鳴る。
顔が熱いからきっと赤面している。そういえば、あの人にも考えてることが顔に出るから分かりやすいと言われた。
「貴女、面白い人ね」
首をかしげた。
船長さんにも言われたけど、それは多分わたしが面白いというのではないと思う。
「それに強そう」
目つきが変わった。こっちを向いたので左足を一歩引いた。
「間合いを見極めるのは得意なようね」
「わたしの力は護るためだけにあります。ご期待には添えれないかと」
「それは残念ね。じゃあ、貴女と戦うのは誰か居る時にするわ」
彼女はまた海の方を見た。
「夕日は好きですか?」
今度はサイが問うてみた。
「海を赤に染めてしまうなんて、忌々しい。でも、赤は好きよ」
「わたしも赤は好きです」
サイの答えに彼女は微笑んだ。
そして、「貴女とは戦ってみたいから」と小さな鈴をサイの方へ投げた。
「ありが……」
鈴を受け止めて、彼女の方を見ると姿はなかった。
(不思議な人)
貰った小さな鈴を見る。彼女の瞳と同じ黄金色をしている。
サイは踵を返して歩いた。鈴がチリンチリンと歩くリズムに合わせて鳴る。
サイ・レディ
文:ふみ