パーティ準備編

Trick-Trap-Polka ―→ 01:heterogeneous

コンダクターという職業を説明するには、謎という一文字があればいい。
何しろ、タワー(カムの管制塔)で働いている、ということ以外は当事者にすら説明が困難である。タワーの具体的な場所や入り方を知らないカムの住民に分かる訳も無く、都市伝説の一種ではないかとまで噂されるほどである。
確かに存在する筈の人々が架空のカテゴリに半身を吸いこまれている最大の理由は、住民がコンダクターの顔を知らないことにある。本職以外の表向きの職業をわざわざ設定されるなどして、コンダクターはその身分を徹底的に隠されているのだ。
特にタワーの外では、時としてその制度に疲れることがある。決して社交的とは言えない、どちらかと言えば単独行動を好むユイキであっても、息の詰まる思いをすることはある。
そんな時、ユイキの足は自然と”同業者”の元へ向かう。

「こんばんは」
自動扉にエスコートされたユイキが、とあるルーブリケーターの事務所に足を踏み入れると、テーブルを囲んでいた三人が一斉にユイキを見た。
この事務所兼住居では五人のルーブリケーターが共同生活を行っている。今は残りの二人が外回りの担当らしい。
「凄い荷物だな、何事?」
真っ先に椅子から立ち上がったのはユウだった。ユイキの抱えている段ボールをひょいと自分の腕に受け、それからテーブルに上げる。
小さく頭を下げながら、ユイキは苦笑した。
「偶々犬見つけただけなんですけどね」
正確には、偶然迷い犬に懐かれた。明らかに好意と分かる態度で擦り寄られてはユイキも無下に出来ず、仕方なく相手をしていたら飼い主がすっ飛んで来たのだ。朝から行方が分からなくなっていたという話だった。
彼か彼女か分からない迷い犬が相当に溺愛されていたのか、ユイキの表向きの職業のせいか、涙を浮かべた飼い主はお礼とばかりに段ボール一箱をユイキへ押し付けた。カムの治安維持を主な任務とするルーブリケーターはイメージだけで敬遠されることも多いが、無条件で慕われることも多い。
コンダクターが身を守るための制度に最も苦しめられるのは、こういった親愛の情を向けられた時である。
「ひっくり返っちゃったんだ」
「何がですか?」
「ミナセさんはどちらかと言えば猫っぽいから」
「…あぁ」
イツキの発言に小さく笑いながら、ユイキは箱を開く。
「まぁそーいうわけで、これ全部持って帰んのは大変なんで、お裾分けに」
促されるまま箱の中を覗き込んだ面々は、直方体を埋める数々の品に目を丸くした。
「何者だよ飼い主…」
「うわ、ちゃんとした果物見たの何年振りだろう」
食品は何かしらの加工がなされた後で出回ることが殆どのカムにおいて、一切加工されていない果物はかなりの高級品である。それが惜しげも無く詰まっているのだから、五感で楽しむより先に溜息も出るというものだ。
「全部持って帰った方がいいんじゃない?俺達には勿体無い」
「オレ達にだって勿体無いですよ。貴重品なのは確かですけど、重いし」
世間的には一人暮らしということになっているユイキは、言葉を選ぶこと無くヨシツグに答えた。
「第一、こんなもん抱えて歩いてたら目立ちます。協力して下さい」
「…何かと大変だよな、コンダクターって」
しみじみと呟いて、ユウは箱の中の果物に手をかけた。
それでも、例えば箱をタワー内まで運んであげる、などという提案をしないのが”同業者”としての彼等の流儀ではある。
「箱よりは袋の方が自然だよね。これ使って…んー、どれくらい入るかな」
「しっかし凄い量だな」
「どう入れても結構な重さになりそうだけど。歩き?」
「えぇ、まさかこーなるとは思ってなかったんで」
「へぇっ、葡萄の実ってこう付いてるんだ」
「あ、それ袋じゃ無理ですね…すいません、そっちで消費して下さい」
漸く楽しむ余裕の出来た四人は、果物の異なる芳香や触感を楽しみながら、大小様々な色彩を一つ一つ取り出しては点描画のように置いていく。底の半分ほどが見えてきた頃、ヨシツグが明らかに異質な色を引っ張り上げた。
「で、わざわざお礼状まで」
色も形も果物とは異なる上質な黒色の封筒に、文字は無い。
全員の注目が封筒に集まる中、ユイキが首を横に振った。
「いや、それは知りません。箱渡されるまでそんな時間ありませんでしたし」
あったら逃亡していた、という言外のニュアンスを汲み取ってイツキが頷く。そして、すぐに首を傾げた。
「…どこかで見たことある気がするんだけどなぁ…」
「サゴちゃんも?俺も何か引っ掛かってて」
「危険物、では無いと思うけど…開けていい?」
首を捻る二人の代わりにヨシツグが訊くと、ユイキは小さく頷いた。
ヨシツグは漆黒のほぼ中央に浮かんだ金色のシーリングワックスに手をかけた。しかし、その指は滑る一方で封筒の開く気配は無い。
封筒はヨシツグの手からユウの手に渡り、更にイツキへと移動したが、結局誰も封筒を開けることは出来なかった。しかも、黒い封筒には少々皺がついてしまったが、それほど頑丈なものではない筈のシーリングワックスは全くの無傷である。
最後に封筒を手にしたユイキが、少しだけ封筒を観察した後でシーリングワックスに手をかけると、黒色の封筒は拍子抜けするほどあっさりと開いた。
「…え」
「は…?」
「あ!」
まるで周囲に人が居ることを忘れてしまったかのように、三人三様の反応には言葉を返さず、ユイキは封筒の中身をするりと抜いた。
二つ折りになった橙色のカード、真っ白な便箋。封筒一式は何もかもが明らかに丁寧で、放っておいたら溶けて無くなりそうな気配すら漂わせていた。
ユイキはカードを開いて果物群の上に置き、それから便箋を静かに広げた。
「思い出した!」
「何?」
「これあれだよ、ほら、前にソウタ君に届いた…」




ハロウィンパーティ開催のお知らせ

お元気でいらっしゃいますか?
来る10月31日
我がRabbitHomeにて 恒例の「ハロウィン仮装パーティ」を開催致します。

美味しいお菓子と 楽しい夢と
そして 無邪気な悪戯心

上記をご持参の上、RabbitHomeまで足を運んで下されば、
当方一同が心より歓迎致します。
常連の皆様も、初めての皆様も
どうぞお誘い併せの上お集まりくださいませ。

合言葉は「Trick or Treat!!





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