07:エメラルドの場合 [03]



「まあ、今年はエメラルドさんが招待されたんですね」
ウィルベルグ城の敷地内には、白亜塔と呼ばれる場所がある。
いつ訪れようとも庭には美しい花が咲き乱れ、見る者の心を和ませる塔。
その主であるエラズルの姉、ファリア・ルドツークは裁縫を得手としていた。
過去、アンバー達がパーティに赴いた際の衣装を手がけたのも主に彼女である。
美しい銀の長い髪を持つ彼女は“白亜塔の天使”と呼ばれていた。
「うむ、そうなのだ。我の仮装の衣装を作ってはくれぬだろうか」
エメラルドが控え目に訊ねると、ファリアは華の如き笑顔で答えた。
「ええ、勿論です。仮装の衣装を作るの、楽しくて好きなんですよ」
「兄様、アクアも頑張りますわ!折角ですから、兄様がお持ちで、お使いでない毛皮を使いませぬか?」
ファリアの傍らから提案する少女は、エメラルドの妹であるアクアマリン・ローレッツィ。
年若いながらも家庭的な彼女は、塔でファリアを手伝っていることが多い。
「ふむ、そうさな。その辺りは主に任せた。取っておいても使うあては無いのでな。しかし…」
結局ついてきていたアンバーの頭上のルビィが、キュ、と声を上げたのはその時だった。
「ん、どうした?」
「どうしたの?」
アンバーとファリアが見上げると、ルビィはエメラルドの所へ飛んでいき、持っていた招待状を掴んだ。
もう一度、鳴き声。
アンバーはルビィを抱き上げ、真っ直ぐ目を見て訊ねる。
「もしかしてお前も行きたいのか?ルビィ」
肯定の声。
「……だとさ」
「むう、どうしたものか…」
エメラルドは思案する。
連れていってやりたい気持ちはある。思い返せば、最初に招待状を手に取ったのは彼女だ。
しかし、招待されているのは一名。
「ルビィくらいなら、抱いて連れて行っても問題無いんじゃないか?」
アンバーが提案すると、ルビィは嬉しそうに鳴く。
「でも、ルビィはドラゴンだから、周りの方々が驚いたりはしないかしら?勿論、悪い意味じゃなくて、ドラゴンが居ない国の人達もいると思うから…」
「ああ、まあ、その辺は大丈夫だと思うけどな。もし心配なら暫くぬいぐるみのふりでもしとけばいいんじゃないか?パーティが始まれば誰も気にしないだろうし」
そこに居る者の視線はエメラルドに向けられた。
「……ふむ、成程な。共に行くか?ルビィ」
キュ、と力強い肯定。
嬉しそうにする彼女を、アンバーは撫でてやる。
「そうと決まったら後はデザインだな。本物の毛皮使うってんなら、結構立派なのが出来るだろうし」
「ええ、そうですわね。兄様がお持ちの毛皮の中には、上等なものも多くあります故」
「それは作りがいがありそうね」
「耳も作るだろ?勿論」
話は良い方向に進んだようではある。
しかし、とエメラルドはもう一度言った。
「……主ら、何の衣装を作るつもりでおるのだ?」
そう、肝心の仮装内容はまだ真っ白ではないか。
一拍置いて、言葉は同時だった。
「狼男だろ?」
「狼男ですわ」
「狼男ですよね?」
「狼男じゃなかったんですか」
今まで傍観していたエラズルまでも。
「……むう」
全くもって異論は無いのだが。
何故こうも誘い合わせたように意見が重なるのか、と、当のエメラルドだけが首を傾げたのだった。



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