To:kel buliba [02]



夜になり、食卓に全員が集まった。
タシュとシャラ─アールの両親─と、アール、そしてルイザとクレアの5人である。この5人での暮らしも、もう4年目になる。
「─結論から言うと」
クレアが切り出した。事情を聞いたタシュとシャラも含め4人がクレアの言葉を待った。
「どこの国からのものかはわからなかった」
予想外の答えに、クレア以外の4人はそれぞれに驚きを示して言った。
 「では何故この村にそんなものがあったのだろう」
 「まぁ、だれの落とし物だったかしら?」
 「クレアにもわからないことってあるんだ!」
 「じゃあ、どこの国のものなの?」
それを軽く聞き流して、クレアは続ける。
「でも、これは招待状…だと思う。これは近隣の国の言葉ではなかった。どこのものかは断定できないが、なんとか解読はできた。これはハロウィンの仮装パーティーの招待状だと考えられる」
クレアの解説に全員が聞き入る。

ハロウィンパーティ開催のお知らせ

来る10月31日
我が「RabbitHome」では 今年も
ハロウィン仮装パーティを催すこととなりました。
持ち物は勿論

少しのお菓子と
少しの夢と

そして
少しの悪戯心

期日にRabbitHomeまで足を運んで下されば、
RabbitHome一同が心より歓迎致します。
常連の皆様も、初めての皆様も
どうぞお誘い併せの上お集まりくださいませ。

合言葉は「Trick or Treat!!

彼独特の柔らかな声で朗々と招待状を読み上げたクレアは、一息つくとルイザの方を見つめて、ゆっくりときりだした。
「そして、これは八宵、きみ宛だと思う」
確信はないらしい。顎にあてた手の指を少し噛んでいる。
「わたしに?」
首を傾げたルイザに、クレアは招待状を指差して見せた。
「ここを見て。宛名。これはきみの名前じゃないかと思うんだ。綴りは違うが発音すると「やよい」となるはずだよ」
「でも…どうして私に?」
そのとき、
「ぼくも行きたい!」
アールが勢い良く身を乗り出した。
「ねぇ、おかあさん、行ってもいいでしょ?」
輝きを増した瞳で母をみたアール少年だったが、
「だめよ」
シャラにっこりと即断され、ふくれっ面になる。
「えーーーどうして?ぼくも行きたい!」
「あなたにも招待状が届いたらね。これはルイザのものでしょ」
でも…、と駄々をこねる息子を横目に、タシュがクレアに尋ねた。
「そういえば日時や場所なんかは書いてあるのか?」
「日は10の月31日、場所は「ラビットホーム」、服装は「ハロウィン」、10の月10日までにお返事お願いします。って書いてあるみたいだ」
クレアが答える。
「場所は…これは一体どこなんだろう…うん後でもう少し調べるか…」
「ラビットホーム、か。聞いた事がないな」
「じゃあ参加のお返事出さないとね!それからハロウィン衣装用意しなきゃ!私が昔着たのがあるはず…」
「ぼくも行きたかったなぁ」
「クレアも知らない場所か…」
「ええ、聞いたことないですね」
皆が口々に喋るのをただ見ていたルイザが、ふと口を開いた。
「ところで、「ハロウィン」って何?」
にぎやかだった食卓が一気に静まり返る。4人全員が自分を見つめているのを感じながら、ルイザは不思議そうに首をひねった。
「そんなに有名なものなの?でも初めて聞いた単語だわ」
しばらくの間呆気にとられていた4人だったが、まずクレアが覚醒した。
「今まで一度も聞かなかった?「ハロウィン」って」
「…聞いたことないわ。多分」
真剣に考えるルイザを見て、他の3人も我に返る。
「そ…そうよね、ルイザが来てから一度もハロウィンの祭りはなかったもの……」
「あぁ…」
どうやら合点がいったらしいシャラとタシュだったが、未だ少し驚きを隠せないでいる。
「お祭りなの?毎年あるわけじゃないのね?」
「そう、大きなお祭りなんだよ!5年に一度あるんだ!」
祭りのことを考えてか、アールが楽しそうに教える。そしてその続きをクレアが拾って言った。
「この国で二番目に大きな祭りなんだ」
「一番はもちろん建国記念祭だよ!」
アールが嬉しそうに付け加える。
「起源は明確ではないな。だがこの国ではハロウィンには仮装して騒いで遊ぶ習慣がある。ただ、祭りは5年に一度だけ。大昔は毎年やってたようだけど、あまりにも皆が羽目をはずして遊ぶもんだから、5年に一度だけになった、という話だ」
「そう、だから5年に一度だけはそれこそ大騒ぎするのよ」
そう言うシャラも楽しそうで、ルイザは素直に感心した。それは確かに面白そうだ。
「次のハロウィン祭は来年なんだよ」
至極残念そうにタシュが言った。
「あら、タシュ、でもルイザは今年もパーティがあるのよ!」
さあ、衣装の用意を始めなくちゃ、とシャラがペンと紙を取り出す。書いているのはどうやら仮装衣装のデザインらしい。
「よし、じゃあ私はジャック・オ・ランタンを作ろう」
席から立ったタシュがとってきたのは、ルイザの世話している菜園のトゥクの実だった。とれも、一番大きいもの。ただ、一番大きい実はまだ熟しておらず食べるには時期が早かったはずだが。
不思議そうにその様子を眺めているルイザに、アールがそっと耳打ちしてきた。
「あのトゥクは食べるんじゃないんだよ。くり抜いて、あかりになるんだ」
「そう…なんだ」
見たこともない光景にただ驚くばかりである。ルイザが器用にトゥクにノミを入れていくタシュに感心していると、細い腰ににゅっと手がのびてきた。
「ひゃっ」
「ま、細い!」
見るとそれはシャラであった。どうやら衣装のために採寸しているらしい。私も若い頃はもう少し細かったのに…とかぶつぶつ呟きながらも手際よく長さを調べ書き取ってゆく。
─私…いつの間に行くことになったんだろう…?
怒濤の展開についていけていないルイザは、シャラのされるがままになっている。部屋を見回してみたが、クレアの姿はなかった。きっとその「ラビットホーム」という場所(?)について調べているのだろう。ルイザは目を瞑り、そっとこめかみを押さえた。


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