To:kel buliba



まだまだ強い日差しに、少し冷たさを増した風が心地よい季節。全てのものに実りと豊かさをもたらす秋の日、ルイザは家の前に作った小さな菜園にいた。ちょっとした薬草や野菜を植えてあるだけの、ささやかな菜園だが、その小さな世界でもすべてのものが実りの時を迎えている。
薬草に水をやり、夕餉に使う分の野菜を収穫する。ルイザはこの仕事がとても好きだった。
シャラから今晩はトゥクの実を使うと聞いている。さて、どれにしようか、どれが一番美味しそうかしら?トゥクの実を選んでいると、遠くから聞き覚えのある高く澄んだ少年の声が聞こえてきた。
「ルイザー!ねぇ、ルイザ!」
息を切らせながら走ってきたのはアールだった。
「まぁ、アール、どうしたの?」
ルイザが尋ねると、アールは誇らしげに一通の封筒を取り出した。
「これ、ひろったんだ!丘の方で!」
開けてみると、それは何かカードのようなものだった。派手な色で何か書いてある。
「これは何?何と読むの?」
大分と流暢に話せるようになったとはいえ、ルイザにはまだこの国の言葉は難しい。特に文字は未だに読むのが苦手である。
「それがね、わかんないんだ。だからクレアに聞こうと思って。ねぇ、クレアはどこ?」
まだ文字を習い始めたばかりのアールも読めなかったようだ。だから一番読めそうなクレアに聞こうと思ったらしい。これは正しい判断だろう。彼の事情から一時期特殊教育を受けていたクレアは村一番の物知りである。
「クレアは部屋だと思う。わたしも一緒に行くわ」
それが何か気になるから、と付け足して、ルイザは丸々としたトゥクを一つもぎとった。

「これはどこの国の言葉だったかな…見た事があるんだけど」
カードを見せた時、クレアが初めに言った言葉である。その言葉にルイザとアールは驚いたのだった。
「ねぇねぇ、なんで違う国のものがこの村にあるんだろう?」
クレアたちの住むファル村は、広いオルサ王国の中でも王都と国境のちょうど間くらいに位置する小さな村で、平たく言ってしまえば田舎である。異国のものは、とてもではないが、似つかわしくない。
アールがした至極真っ当な質問にも答えず、クレアはカードを食い入るように見つめている。
「わかりそう?」
ルイザが尋ねても答えない。一つのことに集中すると周りが見えなくなるのはクレアの悪い癖だ。またか…、と呆れながらルイザは少し深めに息を吸った。
「クレア!」
「はっはいっ!」
耳が痛くなるような大声で、現実にひきもどされたクレアはルイザを見る。顔こそ笑顔だが、ルイザの背後に漂う圧倒的な気配が彼女の呆れと怒りを表現している。
「や…八宵(やよい)……」
「聞いてる?」
顔こそ笑顔を作っているが、目はまったく笑っていない。
こう微笑んだときの八宵は正直、かなり恐い……。顔が綺麗なだけ余計に凄みがあるんだよなぁ…とクレアは思う。ぼやっと見つめ返す青年に耐えかねて八宵─ルイザがゆっくりと口を開く。
「ねぇ、聞いてるの?」
「夕飯までに調べておくよ!だから少し時間をくれ!」
はっと気づいて慌てて答えたクレアを見て、ルイザは怒りを解いて今度はちゃんと微笑んだ。
「そう、じゃあ、よろしくね」
「おねがいね、クレア!」
ルイザはトゥクを両手で抱えてクレアの部屋から出て行き、アールもその後ろをついていった。

「さ、これでクレアが調べてくれるし、戻りましょう。そろそろ晩ご飯作らないとね」
ルイザがアールを振り返ると、アールが楽しそうに言う。
「ルイザだけだよね。クレアにちゃんとお話できるの」
「え?」
意味をとりかねてアールの顔を見ると、アールは少しだけ誇らしげに言った。
「だってクレアはルイザが呼んだときはちゃんと返事するもんね!」
薄くはにかみながら笑ったルイザの顔に、やわらかな光が当たっていた。


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