その塔は、青い空と白い雲とに囲まれて黒々と聳えていた。
石を積み上げて作られた円筒形の2本の塔が、お互いを支えあうようにして建つその様は、いかにも堅牢で朽ち果てることなど無いように見える。
片方の塔にしか存在しない窓は、塔の大きさにしては限りなく小さく、数も極端に少ない。
また、窓といっても、軒があるわけでもなく、外界と内とを何かが遮っているわけでもない。ただ、無造作に切り取られた部分を、あたかも窓枠のように石が縁取って並べられているだけだった。
この塔が、外界を拒絶しているという話は、紛れも無い事実のように思えた。
彼は、その窓から外を覗いていた。
見えるものは、どこまでも青い空とどこまでも白い雲だけ。
その世界には際限がないように見えた。
彼は、ゆっくりと形を変えていく雲を見つめていた。
生きているものである、ということを忘れてしまうほど長い間、
ぴくりとも動かなかった彼が、唐突に口を開いた。
「もしも」
頬杖をついたまま、傍らの鳥篭をみやる。
「僕が死んだら」
この部屋のもう一人の住人である青いカナリアはいつものように、
盛んに瞬きをしながら首を傾げている。
「君も死ぬしかないよね」
まるで、その話には興味が無いわというふうに、カナリアは身繕いを始めた。
彼は鳥篭に歩み寄り、手をかけた。
カナリアが彼を見上げた。
「自由になりたい?」
彼は鳥篭をそっと窓枠にのせて、その扉をあけた。
カナリアはしばらく、何が起きているのか理解できていないようだったが、
やがて、少しずつ開いた扉に近付いた。
青空より、さらに鮮やかな青のカナリアが窓辺から飛び立つ。
彼はカナリアが視界から消える前に視線を部屋に戻した。
そして机の引き出しから本を取り出すと、ベッドの端に座って本を開く。
いくらか、ページを捲ってから彼が視線を上げると、視界に見慣れた姿が飛び込んできた。
無彩色の石の窓辺に、鮮やかな青。
彼は微かに驚いた表情を浮かべた。
ゆっくりと立ち上がって、部屋の隅に行くと鳥篭の扉を開ける。
すると、青いカナリアは、窓辺から飛び立ち、自ら篭のなかに入った。
彼は扉をあけたままベッドに戻って座った。
ちらりとこの部屋の扉に視線を投げて、
また、鳥篭に戻す。
「君も」
そして笑うような口ぶりで言った。
「飼われているのが好きなクチか」
End.