Binding Tower SS03 + 音 +

相変わらず 窓の外には空と雲しか見えない
部屋の中はいつだって薄暗く 空気は重い

部屋の隅には 鳥篭が置かれていたが
その主は 中には居なかった

鳥篭の扉は開け放されている

ベッドの上に座っていた少年は顔をあげ、
その部屋の数少ない家具である 机の上に視線を投げた

積み上げられた数冊の本の向こう側で 青い陰が揺れた
その陰は直ぐに本の上に姿を現す

空よりも鮮やかな青い羽を持つカナリアだ

カナリアは 飛び乗った本の上でちょこんと首を傾げる
そして直ぐに 隣の物体に興味を示した

白い陶器でできたそれは 人の形が模されている
台座には薄い青で繊細な模様が描かれ 金の螺子がついていた

カナリアはぎこちない動きでその人形の頭の上に飛び乗った
ベッドに座っていた少年が ふ、と笑う

「オルゴールだよ」

そう言いながら 少年がベッドから立ち上がると
カナリアは 不器用に羽ばたいて少年から遠ざかった

少年は 机の上からオルゴールを持ち上げ
ひっくり返して 螺子に手をかける

キリ と微かに硬い音をさせて螺子が巻かれたが
聴こえてくるはずの音色は 無かった

「もっとも・・・壊れて音は鳴らないけれど」

鳥篭に戻ったカナリアが
格子の隙間から表情の無い顔を覗かせる

壊れたオルゴール

そう、それはそこにあるだけ

役に立つものではない

「まるで」

ゴトリ と重い音と共に オルゴールが机の上に戻される

「僕らみたいだね」





End.