Binding Tower SS01 + 感 +

その薄暗い部屋を照らすのは、たった一つの、決して大きくはない窓から差し込む光。

浮かび上がるのは簡素なベッドと机と、一脚の椅子。それらが、円形の部屋の中に雑然とおかれている。

石を積み上げて、造られた塔の壁はむき出しのままで、いっそう寒々として見える。

唯一飾りめいたものといえば、窓から部屋の反対側に位置する木製の扉に取り付けられた、大きめの錠前だ。ただ、その意匠ですら、自らに浮いた錆びによって失われつつある。

この部屋の住人である彼は、椅子に浅く腰掛け、足を投げ出して座っていた。
右手に握っているのは、刃先の鋭いカッターナイフで、軽く左手首に押し当てている。

彼は暫く無表情のまま、そこを見つめていたが、
やがて投げやりにナイフを引いた。

色素の薄い肌に、糸のように細い傷ができ、そこから血が滲み出す。
傷口から落ちた数滴の血が、石の床に染み込んで跡を残した。

彼は無感動にその跡を眺めた。

ふと、視線を感じて顔を上げると、
窓の死角で、黒々とした闇を作り出している一角に微笑みかける。

暗闇から覗いていた丸い目が、落ち着かなさそうに瞬きを繰り返した。

「そんなに心配しなくても」

自嘲するように、鼻で笑う。

「こんなんで死ねっこないから大丈夫さ」

そして再び、傷跡をなぞるようにナイフを動かした。
先ほどよりも、多くの血が石の隙間に吸い込まれた。

部屋の暗闇の鳥篭のなかで、青いカナリアは首を傾げる。

「つまりこれが」

滴る血を見つめながら、彼は呟く。

「生きてるってことさ」





End.