Novel:20 『アドニアお見合いアルフレドサイド』

 アルフレドたちは見合いの場となるロスト家の離れに通された。
「先日お会いしたアドニアの王女とお見合いですか?」
 アルフレドは素っ頓狂な声をあげた。
 それを見て、師であるシュゼルド・シウが笑う。
「と言っても、本当の縁談ではないのだよ。彼女には想ってる人がいても立場上そういうことは表せない。もしかしたら、自分の気持ちに気づいてないのかもしれないね」
「ですが、相手がボクでよろしいのでしょうか?アドニアの貴族でもないわけですし」
「リンドホルム家は大陸の三大商家の一つと言われてるのに。そこら辺の貴族からの縁談だって舞いこんでくる。大体がうちの金欲しさにだがね」
 傍らで聞いていた祖父のトーマスが口をはさむ。
 落ち目の貴族がその地位を守るために、商家の者と婚姻をすることは珍しくない。ただ、アルフレドは自分には関係のないことだと思っていた。
 三男というのはそういう話が一番に回ってくるはずなのに。
「済みません。その話は知りませんでした」
「ソフィーが断ってるからだよ」
 アルフレドは視線をお茶を飲んでいる祖母のソフィーに移した。その視線に気づき、ソフィーは微笑む。
「あら、だって本人以外の人たちが決める結婚なんて当人たちが可哀想じゃない」
「上手くいく場合だってあるだろうに」
 トーマスがため息をつきながら言った。
「想いの人が居るのならば、その人以外の方に嫁ぐなんて可哀想よ!!」
「ですが、今回は王族の方のお話。おばあ様のようなわがままは通りませんよ」
 今度はアルフレドが祖母をなだめるように言う。
「というわけで、ジル先生。この話は不自然だとおもわれるのが落ちですよ。きっとバレるに決まってます」
「私もそう思うよ。でもね、渦中の者は周りが見えなくなるものだよ」
 師はにっこりと笑うと、少し冷めただろうお茶を飲んだ。
「一つお聞きしますが……何故ぼくなのでしょうか?スヴェン兄さんの方が年は近いでしょうし……」
「この縁談は私から持ちかけたことになってる。弟子の中か選ぶのが自然だろうね。それに君はタイミングのいいことにシリンと会って話までしている」
「はい、アドニアの様子とシーリィン様がシウ家に居た時の話をお伺いしました」
「他の者よりは心安い相手だと思ってね」
 シーリィン王女がシウ一門の者だと聞いた時は、シュゼルド・シウの名の偉大さを改めて感じた。
 話した感じでは彼女も自分や他の弟子たちと同じく師を尊び、信頼している。縁談を断って、師匠の面目を潰すということはしないだろう。
(ボクにシーリィン王女の真意を聞き出せと言うことならば)
 アルフレドは衣を正して、師に向かった。
「その役目引き受けさせてもらいます」
「君ならばそう言ってくれると思ったよ。アルフレド」
 師は目を細めて、アルフレドを見た。
 そのほほ笑みは自分が聞かされたこと以上の裏があるような気がしてならなかったが、それはいつものことなので気にしないことにした。




アルフレド・ジル
文:ふみ

終わり無き冒険へ!