Novel:19 『知識の泉に棲む鳥』4/4

 図書館の館主であり、アルフレドの祖父が祖母と西の国から戻ったのはそれから3日後だった。
「この間、シュゼルド・シウと名乗る者が来ましたよ」
 食事の席でそういうと祖父は怪訝な顔をした。祖母はその反応を見て笑う。
 祖父母はかつてシュゼルド・シウの弟子だった。今もシウ家とは商売相手として繋がりがある。シウ家の現当主は師匠の息子がなっているという話だ。この2人にとって兄弟子となる存在である。
「今度はどんなお方だったの?」
 祖母は祖父と違って、師匠の名前が出ると嬉しそうだ。
「若い男です。冒険者という格好で。でも、剣は鞘に入ってなくて金なのです。あれでは賊に狙ってくれと言っているようなものですよ。小さい子も一緒に居るというのに危ないったら……」
「黄金色の剣を持っていたのか?」
 祖父の顔つきが変わった。その剣に覚えでもあるのだろうか?
「はい」
「右手に布を巻いてなかったか?」
「えっと……巻いていましたね」
「あら、先生じゃない?」
 祖母は嬉しそうに笑う。
「いや、だって、二十代後半ぐらいでしたよ?」
「ふふふ、先生は歳をとるのを忘れるうっかり屋さんなのよ」
「何がうっかり屋だ。長寿種族の類なんだろうよ。だから、そんなぼっけぼけな発言するんだ」
 祖父が言い終わると、金タライが直撃した。しかし、慣れているのか無言のまま、そのタライを床に置いた。
「ヒドイわ、トム!!あんなにお世話になったのに」
「世話したのはこっちだ。金勘定も出来ない学者風情ばかりが集まって研究、研究。食材買う金も本に費やそうするし。命と本、どっちが大切なんだ!つー話だよ」
(耳が痛い……)
 アルフレドはうやむやに返事をした。
「アルフレド。次のその方が来られたら、会わせてね。絶対よ」
 祖母が声をかけた。
「判りました。お話しときます」
 彼等が来るのは先だと思っていたが、意外とすぐにやってきた。
 その日もジーンに納品した本を一時置いておく部屋から追い出され、館内を回っていた。
サラマンダーを宿した本が反応したので振り返ると、そこには小さな召喚士がいた。
「フィーナちゃん!」
 アルフレドは驚いて駆け寄る。フィーナは杖を抱えて、館内を見回していた。
「お兄ちゃん、“ししょー”見なかったですか?」
(また、迷子になったのか……シュゼルドさん)
「大丈夫だよ。シャドウに任せれば、図書館の中だったらすぐに見つけ出せるから」
 シャドウは一度付いた影ならばすぐに探し出すことが出来る。
「この中じゃないかもです」
「え?」
「“ししょー”はわたしを置いてよく迷子になるです」
 フィーナの話を聞くと、シュゼルドは他の人が一緒に居るとフィーナを置いて居なくなるということらしい。迷子どころの話ではない。
(こんな小さな子を置いて居なくなる?こんなに慕って必死で探している子を?)
「判った!ぼくも一緒に探してあげるよ!」
 戸惑っているフィーナの両肩に手をかけてアルフレドは言った。
(今度こそ、一言言ってやる!)




アルフレド・フィーナ・ジル
文:ふみ

終わり無き冒険へ!