ハロウィンパーティ招待状から始まるそれぞれのサブストーリー

へリオガバルスの場合


3世紀、ローマ帝国。

贅を尽した神殿の中に明らかに他の部屋とは異質な空間がある。
薄暗いそこは、部屋の壁を縁取る様に燭台が並べられており、暗闇に炎で彩りを添えている。
床には一面に薔薇が敷き詰められており、芳香を放っている。
部屋の中央には、妖しげな異教の偶像と水を張った水盆(大変豪華な装飾が施されている)が備えてある。
この祭壇の前に、膝をつき祈りを捧げている人物が一人居た。

その人物は、黒い儀式用のマント・フードをはおっているが、マントの下には神官には不釣り合いな宝石や装飾品を身に付けている。
女物の宝飾品、それに絹で編まれた服を身に付けている所を見ると、この異教の神を崇めている人物は、巫女なのだろうか。
否、彼こそが大いなるローマの国の頂点に立つ、皇帝へリオガバルス、その人である。

偶像に向かい一心不乱に祈祷するへリオガバルス。
その時、窓もないこの部屋で、水盆に突如として波紋が広がった。
へリオガバルスは咄嗟に立ち上がった。その瞬いで、纏っていた黒衣が脱げてしまう。
黒衣から解き放たれ、赤のような、橙色のような、不思議な色のくるんとカールのかかった髪の毛が躍り出る。
美しくうねる髪の上には皇帝の証である、月桂樹を模った黄金の冠をたたえている。
又、黄金で作られた牛の角を模した髪飾りを身につけている。
頬は薔薇色に染まり、瞳は蜜を蕩かしたような輝く金色、
服はトガではなく、ギリシア神話の世界からそのままで出来たような、浮世離れした格好をしている。

「大いなる神バアル神よ!ボクに啓示をお与えくださったのですね!」

恍惚とした表情で、へリオガバルスは水盆を覗きこむ。
どうやら神からの予言はこの水面に示されるらしい。
「清く澄んだ水面よ、ボクに道を示しておくれ…うん?これはなんだろう?」

水の底になにかが揺らめいている。
この世界では見たこともない記号と図像で記された、不思議な紙が発現したのだ。

それを拾い上げると、興味津々といった様子でまじまじと見つめる。
「ハロウ…いん…パーてィ?ふーん…仮装をしてお祭りをするんだね!あははっボク好みの祭だなあ、ねえヒエロクルス?」

部屋の入口で待機している屈強な男性を呼びつける。

「へリオガバルス様…そのような得体の知れぬ集まりに参加されては元老院が黙っておりませぬ」
「ふむふむ、どんな格好をしてもいいんだね!さあどんな衣装にしようかしらん♪」
「(全然聞いてくれない…だがこれ以上お止めしたらきっと機嫌を悪くされるだろう…どうするべきか)」

へリオガバルスは再び水盆を覗きこみ呟く。
「偉大なるバアル神よ、ボクを最も美しく魅せるにはどんな仮装をしたらいいですか?お教えください…」
水面に朧げながらビジョンが浮かび上がる。へリオガバルスは満足そうに笑顔を浮かべている。
「そうですね、素晴らしいお答えに感謝いたします!太陽神の加護を受けた、二つの国の主の装いですね!」

「へリオガバルス様、そのような格好をして歩き回っては市民が黙っておりますまい!
「さっきから、五月蝿いよ、ヒエロクルス。そんなに心配なら、一緒についてきてよ。」
「は?!わ、わたくしですか?!ほ、ほら手紙をご覧ください、一名しか参加できないと記されておりますので…
せっかくお誘いいただいたのに、大変残念ではありますが(断る口実があってよかった・・ほっ)」
「へえ…なんだか行きたくなさそうなオーラに満ち溢れているように見えるんだケド」
「え!いや!そういう訳ではございませんが…」

へリオガバルスは手紙をじーっと見つめ、何か閃いたようだ。
「あはっ★いいこと思いついちゃった!おまえは、ボクの装飾品としてついてきてよ」
「…は?!そう…しょく?わたくしは、一応人間なのですが…」
「お前は人間である前に奴隷でしょ?奴隷はモノでしょ?だから僕を飾るモノになってよ。分かったら黙って支度をして頂戴。」
「は、はあ・・わかりました…(なんと無茶なことを仰る・・)」
「そう、それでこそ僕の大好きなヒエロクルス!あははっ!楽しみだなあ、どんな人に逢えるのかしらん」

「…とりあえず、他の世界の方々を攫うのはご勘弁くださいね…」
「えーやだよやだよ!美しい客人が沢山来るみたいだよ。丁度いいじゃない。」
「だめです!!私が同行するからには、きっちり監視させていただきますからね!」

ハロウィンの準備は始まったばかり・・・




See you later!

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