04:続・不思議な招待状 [01]



 去年のハロウィンから1年。

 あの異世界からの使者に連れられて参加した宴から、もうすぐ1年。
オレはあの会場で色んなヤツらに会った。

 場所・時間から言ってオレ達とは違う所に住んでる存在な訳だし、
使う言葉も違ってて何言ってるのか全く判らない相手もいたけど・・・・
それでも、楽しかったんだ。

「・・・・・・」

 ふと、本が大量に置かれた自分の机に目が行く。

 会場であの案内人・・・・ルークからお土産に貰った本達も、
意外と面白い話題がたくさん載っていて―何度も読んだせいか、
ページが少しすり切れている所があったりする。

 ・・・・最近学校の指令がやたら忙しい上にジャックもあっちの世界に帰ったから、
連絡する手段がなかった。

 ・・・・・・アイツら元気にしてるかな?何となくだけど、また会いたい。


 ジャックが飛んで来る羽音が聞こえやしないかと窓際に近付き、
机の上の本を1冊持って眺めながら目を閉じると・・・・




・・・・ぶはっくしょん!!ハックション!!はああっくしょんっ!!



 ・・・・・・・・台無しだ。色々な意味で。


 壁1枚で隔てられた向こう側、隣にあるソニアの部屋から
盛大なクシャミが聞こえて来た。風邪薬に頼るのを何故か良しとしないソニアは、
正に「熱・鼻・喉」の3拍子揃った風邪にも同じ姿勢を貫いている。

 おかげで発症から5日目、症状の全盛期は過ぎ去っているものの・・
まだ1日の半分以上は布団を被っている様な状態だった。滅多に病気をしない分、
1回引くと薬に頼ろうとしない事もあって治るまでが長いのがソニアの風邪なのだ。

 風邪を引く事自体は仕方ないだろうが、面倒を見ている周りの人間の1人として
その意固地には正直迷惑極まりない物がある。

 しかもコレの原因がアイツの自業自得ならば、尚更・・・・


 オレが暮らすこのリュノー家では、ハロウィンになると発生する
「ストライキ」なる物が存在する。

 日頃の家族に対する不満や鬱憤を、この1日だけであれば
思いっきり暴れて晴らしてもいい事になっているのだ。

 とは言ってもこの家族だから、浮気や修羅場などといった
汚れた荒波とは全くの無縁。

「いつも小遣いが低い」だとか、
「門限が早すぎる」とか、
「俺のオヤツを勝手に喰うな」とか。

 ・・・そういった細かい事が精々な所だ。


 ソニアもまた、小遣いの引き上げという学生のロマン(本人曰く)を叶えるべく
おばさんに挑みかかり・・・結果・見事に返り討ちにされたのだ。



『・・・・・・バカだな。』

『・・ソニアはおれのマスターだよ?普通守護精霊の前でそういう事言うかなぁ・・?』

『違うと思うのか?』

『うん、建前。

 ジェリスとユイの会話を聞きながら、オレはやれやれと肩を竦めて
おばさん特製のカボチャ入りおじやをソニアの部屋に運ぼうと、
鍋から皿によそっていた。

 しかしジェリスの言う事は最もだろう、ソニアが得意とするのは炎系魔術、
おばさんが得意なのは水系魔術。加えておばさんは当時首席で魔法学校を
卒業する程の実力者。その魔力は今も衰えを見せないどころか、
冴え渡っている気さえする。

 ・・・これだけ考えを巡らせていれば、勝負を挑む前からその結果は
正に火を見るより明らかだろうに・・毎年毎年懲りないヤツだな・・・・。

 同様に、おじさんがおばさんに挑んでいるのも見た事があるが・・・
おじさんの得意とする地系魔術とおばさんの属性の相性上、2人の力は互角。
夫婦の「ストライキ」は、小さい頃のオレの目には単なる植樹活動にしか見えなかった。

 2人の魔法がぶつかり合う度、小さな虹が青空に弾けて・・・魔法の衝突点から
緑の赤ん坊が頭を覗かせる。それをソニアやオレが面白がって鉢植えに移し変え、
水をやる。そして花が咲く。

 毎年するその繰り返しのお陰で・・・一時期オレの夏休みの宿題は
色々な花の成長観察日記で埋まり、今やリュノー家はガーデニングが趣味と
近所で噂になっているのだ。


 ・・・・・・因みにオレはおばさんに勝負を挑んだ事はない。
拾い子の様な存在のオレには充分すぎる位に、この家の環境は恵まれていたし・・・

 ・・・・それにまだ命が惜しい。




「・・・・・・ませーん!・・・すいませーん!留守ですかー?」


 ・・・・・と、玄関の方で声がした。そうだ、留守番で暇だからと自分の部屋に
本を取りに来たんだった。

「はい、今出ます」

 ぱたぱたと階段を降りて玄関のドアを開けると、そこには見慣れた制服を着た
郵便屋の姿。パリッとした感じがする水色の動き易そうな制服と帽子には、
清潔感が漂っている。彼の帽子からは、何やらぴょろっと白くて長い物が
それぞれ両側から上向きにはみ出していた。

 ソニアはこの制服を着たいがために郵便屋を目指したいと言っていた事があるが、
おそらく無理だろう。・・・・・・アイツは、方向感覚という物が薄すぎるから。

「君にお届け者ですよ、ラッド君」

 郵便屋の青年がそう言ってにこやかに手渡して来た封筒を受け取る。
その封筒の色には・・・どことなく、見覚えがある気がした。

「・・・・・?」

 ・・・・・今、言葉に微妙なニュアンスの違いを感じたのは気のせいだろうか。

 それじゃ、と軽く手を振り・・・ドア越しに郵便屋が帰っていくマジックチェイサーの
音を聞きながら・・・・オレはふと小首を傾げた。



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