Pumpkin Moonshine



「本当に君達だけで大丈夫かい?」

 オレンジ色のトップハットを傾けて、少年が心配そうに言う。金の髪に赤い瞳をもつ、柔らかな印象の少年だ。
 少年の言葉に、訛りのある声が答える。

「大丈夫でさ!それはおら達にまかせて、ご主人様にはご自分の仕事に専念して欲しいですだ」
「だいじょうぶっす!」
「専念して欲しいですー」
「ですー」
「」

「・・・そう、有難う」

 気遣われて、少年は困惑するような表情のまま微笑んだ。
 少年が言葉を交わしている相手は、ジャックトーテム。大小5個の南瓜がオブジェのように積み上げられた物体で、一番上の一番小さな南瓜以外、目や口を象ってくり抜いた部分を持つ南瓜提灯になっている。所謂、ハロウィンのジャックオランタンの集合体だ。
 ただ、彼らがその身に灯しているのは炎ではなく、況してや、本物の魂などでもない。それは、夢の世界のほぼすべてを構成する、月明かりである。
 淡く発光しながら揺らめく光を見つめ、少年がなおも逡巡していると、背後から名前を呼ばれた。

「ルーク、どうしたの?」
「あぁ、パレット」

 ルークは立ち上がって 少女を振り返った。

「なぁに? 何かあった」
「うーん・・・ジャックトーテムが、自分達で皆を迎えに行くって言うんだ」
「皆って?」
「ハロウィンパーティの参加者達さ」

 あなたたちが?とパレットがジャックトーテムに問うと、ジャックトーテムはそのオレンジ色の体を揺すりあげた。

「えっへん、そうでさ!」
「えっへん、そうっす!」
「えっへんですー」
「ですー」
「」

 一番下の一番大きな南瓜が自信たっぷりに胸(?)を張ると、上に載った南瓜達がその言葉に続くように歌った。一番上にのせられた南瓜だけは、目も口もないので、ぴょんと跳ねてその意志を示す。
 その様子にパレットは楽しそうに笑った。

「何が心配なの、ルーク? だって招待状を届けに行ってくれたのもジャックトーテムなんでしょ。2度目なんだから道に迷ったりしないわよ」
「僕が心配しているのはそこじゃなくて、その、連れてくるときの方法なんだ」
「どうやって、連れてくるの?」

「よしきた、みててくだせぇよ、パレットのお嬢さん!」

 パレットが首を傾げて再びジャックトーテムに視線を移すと、ジャックトーテムはここぞとばかりにはりきった。一番上の南瓜は意気込みを示そうと一生懸命 跳ねた。あまりにも激しく跳ねたものだから、うっかりてっ辺から転げ落ちてしまい、パレットが慌てて受け止める。

 落ち着いて・・・と注意する前に、一番下の南瓜が突然大きくなったように見えた。
 いや実際は大きくなったのではなく、その口を大きく大きく開いたのだ。 あまりにも大きく開いたものだから、目の前が 彼の中の月明かりで一杯になる。

 思わず腕の中の小さな南瓜をぎゅっと抱きしめたパレットは、次の瞬間に体が浮いて強い力にひっぱられそうになるのを感じて、小さく悲鳴をあげた。
 ルークが飛ばされそうにるパレットを庇いながら叫んだ。

「待った、そこまで!」

 すると、ぱたりと吸い込む力が止む。
 地にしっかりと足がついていることを確認してから、パレットは腕を緩めた。抱きしめられたままだった南瓜が、ぴょん、と飛んで ジャックトーテムの自分の定位置にちょこんと納まった。
 ふぅ、とため息をついたルークを見て、パレットもため息を吐きたい気分で頷いた。
 なんとなく、わかった。

「彼ら、招待状を届けに行った時は姿を見せてないんだ。そのときはまだ体が全部通れるだけの扉が開いていなかったからね。でも今度はそうは行かないだろ」

 突然目の前に、喋る南瓜が現れて。
 いきなり口の中に吸い込まれた日には・・・

「こういう体験に免疫がない人は、さぞ恐怖に思うでしょうね」

 パレットはルークの言いたかったことを理解した。
 だが、そういう彼女自身、実は少し前まではこんな不思議な体験とは無縁の生活で、魔法みたいな出来事が存在することを信じても居なかった。

「背後から近付いて こっそり飲み込んじゃえば?」

 パレットの提案に、ルークが片方の眉を上げた。
 冗談よ、冗談、と彼女はすぐに 朗らかに笑う。

「だけど大丈夫よ、ルーク」
「え?」

「だって、もう、奇妙と言ったら招待状の時点で充分 奇妙だもの。それを受け入れられる人達なら、ジャックトーテムのことも受け入れてくれるわよ」

 それに、とパレットは続ける。

「本番ではもっと驚くようなことが一杯あるんだから、これぐらいどうってことないわ」

 そうかなぁ・・・と呟いたルークに、どん、とジャックトーテムが体をぶつけた。

「おら達に任せてくだせえ、ご主人様!大事なお客様だ。しっかり丁重に ご案内しますだよ!」
「まかせてくださいっす!」
「案内するですー」
「ですー」
「」

 一番上の南瓜が、ぴょん、とルークのトップハットに飛び乗ってその上で跳ね回った。難しい表情をしていたルークも、次第に顔が緩んで、そして笑ってしまった。

「わかった。君達に任せるよ」

 ルークが言うと、ジャックトーテムが喜びのあまりにその身の内から月明かりを溢れさせながら飛び回った。
「そうと決まればじっとしていられねぇだ。早速でかける準備をするだよ」
「準備するっす!」
「でかけるですー」
「ですー」
「」

 何を準備するというのか、周囲をぴょんぴょんと飛び回り、即興で作り上げたらしい珍妙な歌を歌いながら去っていくジャック達をルークとパレットは微笑ましく見つめた。
 しかし、いくらも進まないうちに、うっかり大きく口を開いたジャックに何かが派手な音を立てて吸い込まれて行った。
 二人は思わず顔を見合わせる。

「あの調子だと、どうも余計なものまでパーティ会場に到着してそうね」
「招待状を持っていなければ 吸い込まれないはずだけど・・・」

 不安そうな声とは対象的に、どこまでも陽気な歌声が風に乗って聞こえていた。

+ To be continued +

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