秋の大運動会SP 競技編:06 『レディさん提供のお魚は競技者が責任を持って食べました』

「昼食の時間をとります。午後の部の開始は……」
 魔法によって拡張された声が響くと、紅白に分かれていたハチマキが混ざっていく。
「幽!」
「お父さん……」
 まるで数年ぶりに会ったか如く、タタラと幽が抱き合ってるのをアオサとココリータは少し離れたところから見ていた。
「なんで、タラちゃんとスケさん感動の再会なんてやってんの?」
「別の組で気が気じゃなかったんだよ」
「オレだって別の組だったろうー!ここさん、心配じゃなかったのかよー!!」
「可愛い子には旅をさせろって言うんだってさ」
「あれ?なんか言いくるめられた?」
「幽は苦手な学者さんと一緒のチームだから心配してたんだよぉ」
「ああ、借り物競走で告白した人とか、二人三脚でハトさんと一緒になったけど体力なくて結局担がれてた人だね」
「カルーアと一緒に居るように、とは言ってたみたいなんだけどねぇ」
「じゃあ、ハトさんみたくどっちかが移ればよかったのに」
「船長さん、そんなことしてたのかい?」
「だが、他の人と触れ合うということも経験だ。可愛い子には旅をさせろと言うからな」
 いつの間にか二人の抱擁は終わっていて、タタラは会話に参加してくる。
「幽も来たからお昼にするよ!旦那様が場所取りして待ってるはずだからね」
 4人はぞろぞろとヴェイタが場所取りをしているという所へ向かう。
「板さん、仁王立ちしてるよ」
「なんか大魔神!って感じだな」
「タタラ、遅ぇ!!」
「何故、怒られるのオレ限定!?」
「さっきな、ゴンベの奴が来て弁当狙っていたからな。追い返してやったんだよ」
「なんだい、余分に作って来たから構いやしないのに」
「オレだって作って来たぞ」
「手前らはあいつの胃袋が底なしだって知らねぇから言えんだ。放っとくと、ここの弁当全部食べられちまうぞ」
「それは困るね……でも、お腹空くと切ないから、又来たら分けていい……?」
「聞いたか風漢!!幽の人を想う気持ちを!!」
「ああ、どうせ俺は器量の小せぇ男だよ」
「気が立ってるのはお腹が好いてる証拠だよ。さあさ、ご飯にしようかね」
 タタラが竹で編んだ弁当箱のふたを開けると、おにぎりが並んでいる。
「幽、この三角で海苔を巻いてるのは……」
「隙ありぃぃぃー!!」
 赤い残像が弁当箱を持って行く。
「ゴンベー!!」
 ヴェイタが叫ぶと、赤毛の男はすでに追いかけるには難しい距離に居る。
「取られたね……」
「ああ、分ける暇無かったな」
 幽とタタラは呆然とその姿を見送っていた。が、
「酸っぱーーーーー!!」
 声が響いた後、見えていた赤色が消えた。
「あれ、自家製の梅干し入りだからかなり酸っぱいんだよな。だから、注意しろって言おうと思ってたんだが」
 タタラは風呂敷に包んだ重箱を出す。
「ちらし寿司にするか?」
「うん……」
「つか、手前。どれだけ飯持って来てんだよ」
「あと、赤飯もあるが?」
「また赤飯ー!!」
「アオサは食わなくていいぞ」
「メレディスさんより提供のあった魚が焼けましたので、欲しい方はグランド中央にお集まりください」
 再び響く声がして、タタラは魚の方に目を向ける。
 一匹は切り身にしていたようだが、もう一匹は丸々焼くという行動が大雑把なのか凄いのか判らなかった。
「お、あの赤いのはゴンベじゃないのか?梅干しから復活したな」
「お父さん、あの緑色の髪の人凄い勢いで食べてるね……」
「見てるだけで腹が膨れるな」
「カイエも居るね……」
「おお、あいつもよく食べるな」
「シャツの派手なおじさんも居るね……」
「つか、ほとんどあの4人で食ってるよな」
「他の人を寄せ付けない勢いとオーラだね……」
 その勢いとオーラはこの後のパン食い競争でも発揮されることとなる。
 弁当箱一つで済んで良かった。風漢の判断は正しかったか、とタタラは思っても口にはしなかった。





タタラ・幽・ココリータ・アオサ・ヴェイタ
文:ふみ

終わり無き冒険へ!