ハロウィンパーティ招待状から始まるそれぞれのサブストーリー

壇ノ浦 昇の場合

「ちょっと壇ノ浦先生?!あなたまだ期末考査の採点が終わってらっしゃらないんですかっ!?」
時渡学園高等部、職員室。
物凄い形相で仁王立ちの女性教諭は男性教諭を叱咤する。
「は、はいぃ…すみません…」
壇ノ浦と呼ばれた男性教諭はすっかり委縮しきって、事務椅子にちょこんと小さくなって座っている。
「とにかく!早急に!お願いしますねっ!失礼しますっ」
女性教諭は彼をキッと睨むと、踵を返し、職員室を後にした。

女性教諭の怒りに燃える後ろ姿を見送ると、壇ノ浦と呼ばれた男性教諭は、肩の力を抜き、机の上にもたれかかった。
「はああっ…こんな沢山の採点、ボクちゃん飽きちゃう!生徒ちゃんが何点とろうが関係ないですよ…!退屈ちゃん!」
そう呟き、重いため息をつくと、仕方ないので仕事を終わらせてしまおうと決心し
答案用紙をトントンと揃える。すると、用紙の束から葉書サイズの紙がはらり、と舞い落ちた。

「はて…これは答案用紙ちゃんでは…ないですねえ。どれどれ」
壇ノ浦は怪訝な顔をして、床におちたその紙を拾い上げる。
「ハロウィンパーティ開催のお知らせ…?これは…ボクちゃん宛て…っ!!」
パーティへの招待状だと分かった途端、彼の表情は先ほどの憂鬱そうな物とはうってかわって
にやけた表情に変わっていた。

「美味しいお菓子と、楽しい夢…夢…?そうですねぇ、ボクちゃんの夢は、沢山の素敵な素材を使って、沢山の素晴らしいお人形を作って、
そしてその子たちに囲まれて過ごす事…その夢への足がかりになりそうなイベントちゃんじゃないですかっ!ウフフフ…素敵」

壇ノ浦はぐんぐん上がるテンションに任せて、くるっと事務用椅子にスピンを掛け
バレエダンサーよろしく華麗に立ちあがり(むしろ舞いあがりといったほうが正しいかもしれない)
物凄い勢いで職員室から飛び出していった。

答案用紙は、彼の華麗なスピンによってばらばらに散らかされ、床に放置されている。



ところ変わって、学園の廊下。
ごくごく普通の女子高生、日月(たちもり)リンネは
偶然の巡りあわせにより、憧れのクラスメイト、立桐 時生(たちきり ときお)とひと時の会話を楽しんでいた。
「憧れのトキオ君とお話できるなんて…なんだか緊張してきたよっ…緊張しすぎて、吐きそうかも…おえっぷ」
すっかりこの状況にのぼせきっているリンネをチラと見て時生は話しかける。
「日月、顔赤いけど大丈夫?ひょっとして熱、あるんじゃないか?吐き気まであるなんて。ちょっと失礼するね。」
時生はにこりと笑いかけると、リンネのおでこに自分のおでこを当てた。
「ぶわわわああ!!ちょ、トキオ君、わたしマジげろっちゃうっ!!」
「熱は…ないみたいだね。くすっ…リンネちゃんは、いつも面白い顔するね。
(これで満足か?精々甘酸っぱい青春を謳歌すればいいよ…ククク…)」
時生は、優等生で通っているが腹の中は黒く禍々しい感情が渦巻いているという、なんちゃって好青年なのである。
そんな事も露知らず、リンネは淡い恋心に胸を焦がしていた。
「(はあ…トキオ君のこういう所がかっこいいっ!もっと好きになっちゃうよー!好きすぎて…おえっぷ)」
と、その時―
廊下の向こうから、物凄いスピードで走ってくる何者かがいた。壇ノ浦だ。
「ひゃーはー!!ボクちゃん、パーティちゃんに、インビテーションちゃん!キラッ★」
彼はそのままリンネと時生めがけて突っ込んだ。
「いたたた…」リンネも時生も、そして壇ノ浦も激突した衝撃でひっくり返ってしまった。
「おい、この糞教師!どこ見て歩いてるんだよっ!」思わず時生は素の自分がでてしまい物凄い剣幕で壇ノ浦に抗議する。
「あーん痛いっ!でもこの痛みこそ人間の証っ♪痛いのは嫌いじゃないのです…いたいのいたいのもっとこーい★」
壇ノ浦はそういうと、恍惚の表情を浮かべるのだった。
「…壇ノ浦先生、どんな趣味をお持ちなのか存じ上げませんが、
そういう嗜好は学園には持ち込まないでいただけますか?風紀が乱れますので」
時生は一応微笑んでみてはいるものの、その顔には嫌悪感がにじみ出ている。
「ウフフフ…そうですねえ…トキオちゃんの提案…無ー理ー!生徒ちゃんに指導されたくないボクちゃんです♪」
時生はこれ以上黒い自分を出してはまずいと思い、こいつを殴りたいという衝動をぐっと堪えて壇ノ浦に微笑みかけた。
「出すぎた発言を申し訳ありませんでした。仮にも、貴方は先生なのでした。失礼しました」
険悪な雰囲気になってきた…と察知して咄嗟にリンネが2人に話しかける。
「ちょ、えーっとお二人とも、お怪我はありませんかっ?!えっとえっと…壇ノ浦先生、そんなに慌ててどうなさったんですかっ!?」

壇ノ浦はリンネににこりと笑いかけると先ほどの招待状を見せると
「うれしいなあ〜…ボクちゃん、パーティなんて…ちびっこ振りなので。で も ね!困ってるんです。だってこれ…仮装だなんて!!
ボクちゃん、お人形にお洋服を着せるのは得意だけど、自分が何を着ていいかなんて、わっかんないのですよねえ」
「えへへ、それなら私に任せてください、先生っ!!」
「へ…日月ちゃん…!!ほんとですかっ…?!」
「これでも私、ハロウィンパーティ参加経験者ですから!きっとお手伝いできますよ♪それに、トキオ君もいることだし!」
「まあ、この全知全能な神高校生の俺が居れば…ってえええ?!俺も手伝う訳!」
「トキオ君の神スキルが生かせる素敵なお仕事になると思うよ、ね、お願い?」
「日月さんがそこまで言うなら…神スキルで協力してあげます。」
「ではでは!壇ノ浦邸にゴー!」


「お邪魔しまーす」
「…お邪魔します。」
「はいはーい遠慮なく上がっちゃって頂戴♪」
リンネはこまめに整理されている事が伺え、部屋所々に手入れされた人形が飾られている室内に関心しているようだ。
「わあっ…先生のお家、すっごく素敵ですね!お人形かわいいし♪部屋の中もすごい整頓されてるし…見習いたいですっ」
「まあ、大したことないわん。ボクちゃんはお人形と快適に過ごせる場所なら、それ以外にはあんまり拘りないの。」
トキオはちらちらと、室内を観察しながら家を値踏みしている。
「(フン…流石名家、壇ノ浦家の御子息のお宅、とでもいった所か。マンションとはいえ、一介の教師には住める家ではないな。)」

3人共テーブルに着くと、リンネが腕をまくり上げその場のまとめ役にならんと、次々とプランを提案していく。
「さ、ちゃっちゃとやっちゃいましょうっ!まずどんなコンセプトにするか決めよう!」
「先生は、好きなモチーフとかありますか?ご自分の好きな物を衣装に盛り込めばいいと思いますけど。」
「ボクちゃんは、お人形が大好きなの★」
「ふむふむ、人形…と。じゃあ人形を身に付けるようなデザインでいこう。
ハロウィンに因んだお人形といえば、何だろう?日月さんどう?」
「えと…ジャック・オ・ランタンとか、おばけとか、こうもりとかのお人形とかどうかなあ?」
「うーん…かわいいけど、ボクちゃん的には、人間の形をしてこそ人形だと思うの。これボクちゃんのポリシー。
だから、人間の形の子を連れていきたいわ!」
「人の形のモチーフ、か…難しいな。そうだ、先生のコレクションを見せて頂けますか?実物を見ながら考えよう」
「ノンノン!コレクションじゃなくてコレクシオンって言って頂戴!これボクちゃんのポリシーその2だから★」
壇ノ浦はウインクをしながら、得意げに2人に言葉を投げかけた。
「(…こいつッ…想像以上に…うざい…!!)」
時生は素の自分を曝け出してしまっても構わないから、この男を殴ってしまいたい…と心から思った。
と、リンネが発言した。
「そうだ!先生のコレクションを見ながら、どのお人形を連れていってあげるか考えようよ!」


「はいはーい、ここがボクちゃんのコレクシオン部屋です♪」
壇ノ浦は得意げに、部屋のドアを勢いよく開けた。
目の前には、天井ぎりぎりまで山のように積まれた人形がずらりと並んでいる。
壇ノ浦は自分のとっておきの宝物を前に、恍惚の表情を浮かべているが
対照的に、他2人は呆気に取られている。
「う、うわあああ!凄い!この光景、ちょっとホラーかも!?」
「すごい趣味だな…これだけ集める執着心には目を見張るものがあるが」

リンネは壇ノ浦にぽそりと話しかける。
「先生、ハロウィン向きな子を探したいんですけど、この子達、触っても大丈夫でしょーか…」
「ああ…いいですよ。くれぐれも気をつけて、触っていただければ。もし壊したら…まあ君が代わりになってくれればいいです」
「はい!じゃあ失礼しますっ!でやっ!」
時生は2人が会話しているのを一歩下がって大人しく聞いている。
「(日月、今すごい危険なフラグが立った気がするんだけど…まあいいか。それはそれで面白そうだからな)」

と、リンネの触覚よろしくの特徴ある毛がピンっと立ち上がった。
どうやら、これは彼女のひらめきアンテナ的な物らしい。。
「この子いいんじゃないでしょうかっ!?ほら!」
リンネが見つけた人形は、綺麗に着飾った骸骨の人形だった。
男女対になっていて、糸繰りで操れるようになっている。
骸骨とはいっても、どこか陽気な感じがして、決して怖いイメージは与えない物だった。

「あらま、それはメキシコのカラベラ人形ちゃんですねえ!骸骨なら…一応人間型ですね★」
「カラベラ人形…ってなんですか??」
「メキシコで行われる、「死者の日」っていうお祭りがあるんですけれど…ハロウィンみたいな。
そこで使われる、死者に見立てたお人形の事なのですよ♪表情豊かで、かわいらしいですよねえ…」
時生はニヤリと笑うと提案した。
「メキシコか…じゃあ先生の仮装もメキシカンでいっちゃいましょうよ!愉快に!陽気に!って感じで!」
「時生くん、それ名案だね!あ、あれとかどう?!えっと…楽器ひいてて、おっきい帽子かぶってる人、えーと」
「マリアッチだね!それで行こう!いいですよね、先生!」
「え、あ、いいですけどん…でもボクちゃんにそんな愉快で陽気な仮装、似合うのかしらん」
「大丈夫!先生にマッチするようにアレンジしますから!」

「ウフフ…2人とも、ありがとうございます。これで心置きなく参加できそうですよ♪お土産持ってきますからねえ…」
壇ノ浦はパーティに心躍らせていた。そして…テストの採点の事は完全に忘れているのだった。

ハロウィンの準備は始まったばかり…


See you later!

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