終幕の唄


本当はとっくに気づいていたけれど、誰もが気づかないフリをしていた。
天井も壁も床も…全ての夜空に明るい光が差していることを。
おしゃべりな星達の姿も今は薄く遠く、目を凝らしてやっとその明滅を確認できる程度だった。

それでも、あと少し、もう少し。
星達に背を向けて、仲間達に話しかける。
別れが来ることを知っては居ても、その時をできるだけ先に延ばしたい気持ちがあった。
そんな気持ちを知ってか知らずか、会話を打ち切るように鈴の音が広間いっぱいに響き渡る。

「…そろそろ、時間だね」

変わらず微笑みながら、だけど少し寂しそうに金の髪の少年が呟いた。
参加者達はそれぞれ顔を見合わせる。

「少し面倒かも知れないけれど、今度は自分達の足で外に出ないといけないんだ」

誰かが、分かったと、なんでもないことのように笑おうとして表情を強張らせた。

「さぁ、早く。城が元に戻る時に中に居たら、一緒に小さくなってしまうよ」

ずっと夢の中で暮らしたいなら、それでもいいけれど。
少年のその言葉は悪戯めいた脅しだったが、彼のわずかな願望が含まれてもいた。
それでも皆が慌てて城の出口へと足を向けるのを見て、彼は満足そうにからりと笑った。

歩いていくと城の出口らしき扉が開いて、外から光が差し込んでいるのが見えた。皆が足を止める。
茶の髪の少女がそこで待っていて、自分の傍らの山を指差しながら、お土産だと言うものだから。幾人かが目を丸くした。
どうやって持って帰れというのか、と問うと、送るから大丈夫、と答えが帰ってきた。

寂しい気持ちもあるけれど、それ以上に、楽しかった気持ちが胸を一杯にする。
最後にもう一度、皆で一緒に笑った。

「ホラ、もう時間だよ」

後ろから追いついてきた少年が急かす。
半ば追い立てられるようにして、皆が一斉に城の外、光の中に足を踏み出した。

その先には星空と砂地が広がっているのだと思っていた。

だが、予想と全く違った世界が突然目の前に現れて面食らってしまった。

でも違和感を感じるなんて可笑しい。
自分が足を踏みしめている、此処こそが本来の”自分の世界”なのだから。

振り向いても、もう、仲間達の姿は傍になかった。
変わりに、沢山の土産物が詰め込まれた袋や箱が山と積まれていた。そしてその頂上に、一枚の招待状。


参加者達は皆、遅かれ早かれその招待状の上、紙の城の窓から穏やかな光がこぼれていることに気づくだろう。
窓を覗くと、あのときの大広間が見える。夜空を模した室内と、その真ん中の大きなステンドグラス。
そして、おや、と思うのだ。
ステンドグラスの絵が、記憶の中のものと違うことに。

ステンドグラスに刻まれているのは一緒に楽しい時間を過ごした、全ての仲間達の姿。

楽しくて懐かしい仲間達の姿。
一人一人、名前を呟きながら目で追っていくと、中の一人がウィンクを返してくるかも知れない。






楽しかった?

ねぇ、また、会おうね…!




+ END +

出会えたから 友達になりたい