The whisper of moon
それは夢だった。
名前どころか、カタチすらない、ただの夢の欠片の一つに過ぎなかった。
ふわふわと意識の狭間を漂う、未だ頼りない小さな夢の欠片。
己の意思さえも持ち得ないものであったが、何の為に生まれたかを知っていた。
楽しい夢になるためだ。
夢を見たものの為に。
そのものに温かい気持ちを与える為に。
方法は知らない。
だが、望まれた通りにすればよいのだ。
その欠片は仄かに瞬きながら ゆっくりと漂い続けた。
いつしか他の夢の欠片とともに、川のように流れを作りながら。
気が付けば、周囲の欠片が自身に集まり始めていた。
ゆっくりと流れながら、一つ、また一つとその中へと。
その中の欠片が一つ増える度、それは次第に大きくなりそして放つ光を増していった。
大きな扉の前に辿り着いた頃には、それはもう、欠片などではなく。
カタチもあり、意志もある、一つの存在だった。
彼は得たばかりの小さな腕をいっぱいに伸ばして扉に触れ、
初めての言葉を 舌足らずに囁いた。
「きっと・・・・・・きっと君に 楽しい夢を見せてあげる」
開いていく扉の先には、光が溢れている。